歯科の仕事をしていると、口腔の健康だけでなく、その人全体の状態と向き合うことになります。特に介護施設へ出張治療に行くと、様々な病状を持つ方に接する機会があり、その中で「認知症」と「精神疾患」の違いを強く意識させられます。
認知症の現場で見えるもの
介護施設に入所したばかりの頃は、まだ会話も成り立ち、治療への理解もある患者さんが、わずか一か月でほとんど反応を示さなくなるケースも少なくありません。進行が進めば、確かに「ただ生きているだけ」という印象を受ける状態になることもあります。
ただし、認知症は進行するまでは比較的普通の生活を送ることができます。思考や感情の安定性は保たれており、精神そのものは正常に見えるのです。
精神疾患の難しさ
一方、統合失調症や解離性障害(多重人格)などの精神疾患では、日常生活そのものが難しくなるケースも多々あります。私が経験した患者の中には、記憶と感情の欠損が顕著な方がいました。見た目はまったく普通でありながら、歯科治療の予約を忘れるだけでなく、治療を受けたことすら覚えていないのです。
このような現象は、単なる物忘れとは異なり、深層心理や潜在意識の働きに問題が生じているのではないかと考えさせられます。
フナ心理学から見た精神疾患
ハワイの伝統的な心理学「フナ」では、人間の意識を三つに分けて捉えます。ロウセルフ(潜在意識)、ミドルセルフ(理性的意識)、ハイセルフ(高次意識)。精神疾患の一部は、この三つの意識の連携が崩れ、特にロウセルフが体内から離脱したり、入れ替わったりすることで起こると説明されます。
マックス・フリーダム・ロングの著作でも、精神疾患をこの「三つの意識モデル」に基づいて分類しています。実際に臨床の現場で患者さんを見ていると、この分類は非常に現実に即しており、診断を整理しやすくする枠組みだと感じます。
医学とオカルトの狭間
もちろん、現代医学の場で「フナ的治療法」をそのまま持ち込むことはできません。知らない人から見ればオカルトにしか思えないでしょう。しかし、私自身は歯科治療を通じて多くの患者さんと接する中で、医学と伝統的心理学の両方に目を向けることで、人間理解がより深まるのではないかと感じています。