内丹法の理論と実践イメージ

仙道理論に沿った修行法を簡単に説明します


三つの丹田

内丹法では、身体を「炉」と見なし、特に丹田が重要な役割を果たします。

  • 上丹田(額〜眉間の奥):精神・意識(神)
  • 中丹田(胸の中心):呼吸と感情(気)
  • 下丹田(臍の下):生命エネルギー・生殖力(精)

図解:丹田の位置

   (頭) ─ 上丹田 ─ 精神・意識
     │
   (胸) ─ 中丹田 ─ 呼吸・感情
     │
   (腹) ─ 下丹田 ─ 生命エネルギー

初心者はまず「下丹田」を意識することが基本とされます。


内丹法における気の発生方法

1. 精からの転化(煉精化気)

  • 方法:生殖精や臓腑に蓄えられた「精」を保存・錬成し、呼吸や観想によって「気」に変える。
  • 具体例
    • 性的エネルギーの節制(房中術の昇華)
    • 下丹田に意識を集中し、精を漏らさず「気」として循環させる
  • 意義:最も根本的な「気」の発生方法。生命力を直接「燃料」として活用する。

2. 呼吸からの生成(吐納・調息)

  • 方法:外界の空気を吸い込み、体内の精と融合させることで「清気」を発生させる。
  • 具体例
    • 吐納(と‐のう)=不浄な気を吐き、清浄な気を吸う
    • 腹式呼吸・逆腹式呼吸によって下丹田に気を集める
  • 意義:大気の「天の気」を取り込み、体内に循環させる。初心者が取り組みやすい。

3. 食物からの変化(穀気)

  • 方法:飲食物を消化して得られる「後天の気(穀気)」を基盤とする。
  • 具体例
    • 黄帝内経における「脾胃は後天の本」
    • 健康的な飲食が内丹修練に直結するという思想
  • 意義:食養生によって得られる気は、呼吸・精と結びつき「全身の気」の源となる。

4. 精神集中・観想による発火(意気)

  • 方法:意識(神)の集中によって気が発生・誘導される。
  • 具体例
    • 内観・存思(心中に星辰や神霊を観想)
    • 下丹田に光や火を観想し、そこから気を生み出す
  • 意義:心と意識が「火」を起こし、身体の精と呼吸を統合する。内丹特有の象徴的手法。

5. 天地自然との交感(外気の導入)

  • 方法:天地・宇宙の気を直接取り込むイメージを用いる。
  • 具体例
    • 朝日の昇るエネルギーを吸収する観法
    • 大地の気を足裏(湧泉穴)から取り入れる想念法
  • 意義:人間を「天地の縮図」と見なし、外宇宙のエネルギーと交流させる。

分類表

発生源方法意義
煉精化気生命力そのものを燃料化
呼吸吐納・調息天の気を取り込み循環
食物穀気後天の気、身体活動の基盤
精神意識・観想神が気を動かし発生させる
自然天地との交感人体を宇宙と一体化させる

内丹法では「気」は単一の源からではなく、

  • 精の節制と転化
  • 呼吸の調整
  • 食養による後天の気
  • 精神集中による発火
  • 天地との交感

といった複合的な方法で生み出されます。
修練の進度に応じて、最初は呼吸・食養・精の保持から始まり、やがて観想や宇宙との交流へと深めていくのが典型的な道筋です。


小周天(しょうしゅうてん)の循環

小周天とは、気を体内で一巡させる観想法です。

流れ

  1. 下丹田から始まる
  2. 背骨に沿って頭頂まで上昇(督脈)
  3. 額から喉・胸を通り、舌を経て再び下丹田へ戻る(任脈)

図解:小周天

  ↑   (督脈:背骨を上昇)
 [頭頂]
   │
  額 → 喉 → 胸 → 丹田
   ↓   (任脈:前面を下降)

※瞑想の際は、呼吸と意識でこの流れをイメージします。実際喬の修行では、脈の上にある重要なポイントを通すために、その部分で気を留めて練る必要があります。


内丹における主要な関門(関・橋・宮)

1. 喉嚨橋(こうろうきょう)

  • 舌と咽喉の間にある「橋」。
  • 小周天で気を背から前に通す際に、舌を上顎につけて「橋」を架けることで気の流れを完成させる。

2. 泥丸宮(でいがんきゅう)

  • 脳内、眉間から頭頂にかけての「上丹田」。
  • 精神・意識の中心で、内観修行の焦点となる。

3. 三関(さんかん)

背骨に沿って存在する三つの重要関門。小周天を背面に巡らせる際に越えなければならない。

  • 尾閭関(びりょかん):尾骨付近、会陰から気を督脈へ引き上げる最初の関門。
  • 夾脊関(きょうせきかん):背骨中央部、肩甲骨の間あたり。気が滞りやすい場所。
  • 玉枕関(ぎょくちんかん):後頭部、延髄付近。背から頭へ気を通す最後の関門。

4. 黄庭(こうてい)

  • 心臓と胃の間、中丹田に対応する中心。
  • 「神明の宮」とも呼ばれ、感情と意識の統合点。

5. 絡却宮(らっきゃくきゅう/蘭闕宮とも)

  • 心下部に位置し、呼吸や情動のエネルギーが集まるとされる場所。
  • 一部の流派ではここも小周天の要点とされる。

6. 紫府(しふ/紫房宮とも)

  • 丹田上方、胸腔内の神霊が宿る場。
  • 「天帝の居所」ともされ、精神性の象徴的関所。

7. 氣海(きかい)

  • 臍の下、下丹田の中心。
  • 小周天と大周天の出発点であり、気の貯蔵庫。

代表的な「七関」一覧(整理表)

名称位置意義
尾閭関尾骨・会陰部小周天の起点、精を気に変換
夾脊関背骨中央気の上昇を妨げる難所
玉枕関後頭部気を頭頂へ通す最後の関所
喉嚨橋舌と咽喉の境前面下降ルートへの切り替え
泥丸宮脳・上丹田精神と意識の中心
黄庭胸中感情と意識の統合点
氣海(下丹田)臍下生命エネルギーの根本

※流派によって「絡却宮」「紫府」などを含め、7〜9箇所を数えることがあります。

これらの関門は発生した陽気を通し難いことが多いので、通り抜けるまで気を強める必要があります。

また、場所によっては気の変質が起こるまでとどめて練る必要があります。そのやり方やどの場所を使うのかは流派によって差があるようです。


大周天(だいしゅうてん)

小周天が習得できると、さらに気を全身の経絡へ巡らせる「大周天」へ進みます。
これは全身の気の循環であり、内外のエネルギーを調和させる最終段階の一つです。


三宝の錬成プロセス

内丹理論では「精・気・神」を段階的に変換していきます。

  1. 煉精化気:身体のエネルギーを呼吸と瞑想で気に変える(小周天)
  2. 煉気化神:気をさらに精錬し、精神力・洞察力へと昇華(全身周天)
  3. 煉神還虚:精神を純化して、無の境地へ至る(大周天)
  4. 合道:宇宙の根源「道」と合一する

図解:三宝の変換

   精(身体) → 気(呼吸・活力) → 神(精神) → 虚(無) → 道

水火の調和 ― 坎離交媾

内丹法の中心的理論は、**腎(水・陰)心(火・陽)**を融合させることです。
この「水火既済」が達成されることで、陰陽が調和し、生命エネルギーが安定すると考えられました。

図解:水火の統合

   腎(水・陰)  ↑↓  心(火・陽)
        └── 坎離交媾(陰陽合一)

初心者への基本ポイント

  • 下丹田を意識する呼吸:腹式呼吸で「気を丹田に収める」イメージを持つ
  • 舌を上顎につける:小周天の回路を閉じるための要点
  • 力まず観想する:強い力で制御するのではなく、自然に「気が流れる」ことを感じ取る
  • 段階を急がない:精を養い、気を安定させることが先決

まとめ

内丹法は、難解な象徴に包まれていますが、実際には以下の流れで整理できます。

  1. 丹田を意識して呼吸を整える
  2. 小周天で気を巡らせる
  3. 精・気・神を昇華させる理論を理解する
  4. 陰陽(水火)の調和を体感する

これらを重ねていくことで、心身の調和から精神的完成へと至る道が開かれます。


ここで紹介している方法は、一般的に知られている資料から抜粋したものです。本来の修行法は流派によって大きく異なり、気の発生や瞑想のやり方も師匠から直伝されるものなので、ほとんど文章化されません。

私が教わった方法もこの理論に沿ってはいますが細部はかなり違います。大周天に至るまでの部分は完全に秘密扱いされていました。

このサイトでは明らかにしても問題がない部分だけを書いていくつもりです。